本書は1996年フランスで出版された原書を翻訳したもの。日本での発売年は2008年。
すぐれた科学啓蒙書に与えられるフランスのジャン・ロスタン賞*を1996年に受賞。
*ジャン・ロスタン賞:日本語で検索したが詳しい解説のあるページはなかった。Wikiもなし。ジャン・ロスタンについてはこちら(英語wiki)
●本書との出会い
図書館で発見しました。このタイトル『赤ちゃんはコトバをどのように習得するか』は、ずばり、私がものすごく知りたいことです。ところが、読み始めたものの、なかなかゆっくり読書できる時間がなくて(4カ月の子どもがいるんだから当たり前!)、図書館から催促状をもらってしまい、1カ月遅れで返却したものの、2割程度しか読めなかったという……なんともな敗北感。
でも返却してから、この本を読みたい意欲がグングン高まって、Amazonでポチしてしまいました。古本で1000円くらい。最近は気になったところにペンで線を引くので、図書館で借りるのではダメなんですよね。そして結果、買ってよかったです!……というのは、線を引いて、頭に何度も刷り込ませて理解しないと頭に入ってこないくらい難しい本だからです。論文などを読みなれている人にはそんなに難しい文章ではないのかもしれませんが、私はダメでしたー。でも、そんな私でも読破できたので、こどもの言語習得に興味がある人なら、読んでみていいと思います。
●構成
約250ページの本です。大まかな構成は以下の通り。
序論
第一章 乳児は話さない。しかし……
第二章 コトバの出現
第三章 コドモのコミュニケーション世界
第四章 単語の意味の発見 ――生後9~17カ月
第五章 語彙への歩み ――生後11~18カ月
第六章 こどもそれぞれのスタイル
第七章 言語、文化、コドモ
第八章 始語(パロール)から言語(ランガージュ)へ――生後18~24カ月
結論
要約――0歳から2歳までのコトバの発達の主要段階(表)
●へぇ、と思ったところをいくつか
この本を読んでいるとき、私のこどもは生後5カ月になるくらいの頃だったので、第三章「コドモのコミュニケーション世界」くらいの内容までは、「うちの子もそうだった!」「あ、あれがコトバの発達なんだ」と、子どもの発達を目のあたりにしながらわかるところがたくさんありました。
例えば、
4~5カ月頃になってはじめて、声をいろいろ調整できるようになる。(中略)4~5カ月ですでに音のレパートリーを広げようとする。一通りすべての発声機能を発達させ、摩擦音や[m:::]という、つぶやくような鼻音、[prrr],[brrr]といった巻き舌の両唇音、口蓋垂音のトリル(トリの鳴き声のような音)といった子音的素性に加え、声の高さ(鋭い叫び声やうなり声)、音のレベル(わめき声やささやき声)といった韻律的素性を操るのである。(p.48)
本当にそうでした。4~5カ月くらいの時に、それまでは聞いたことのない音を発したり、さまざまな音量の声を出したりしました。この著者はフランス人なので、実験の結果やサンプルがフランス語もしくはフランス人の赤ちゃんを基本に書かれています。日本人の赤ちゃんの場合、もしかすると発する巻き舌音などは上の記述とは異なるかもしれません。うちのこどもは、舌を口の外に出し、上唇と下唇の間にちょこんと置いて、息を思い切り吹き出す(唾がものすごく飛ぶ)と出てくる[バ]と[ベ]の間のような音でした。それから音量も、大きな声を出すこともあれば、甘えたようなささやき声になったり、ボリュームのバリエーションがとても増えました。
3カ月頃に、しかもほんの短期間「代わりばんこ(ターン・テイキング)」と呼ばれる、今までそれほど研究されていない、奇妙な行動が出現する。(中略) まるで「会話」がおこなわれているような印象を与えるのである。(p.85)
そう! これ! 本当に会話をしているかのような声のやりとりをする時期が少しだけありました。おばかな私は、最初「え! もう会話がわかるの?」と勘違いしていたくらいです。私の声に反応して、同じような時間の尺だけ、同じようなリズムで声を返してくれるんですよね。ああ、この時の動画を撮っておけばよかった。
このほかにも何カ月ごろになると子どもがどんなことがわかるようになって、どのようにアクションするのかといった内容がたくさん書かれています。本書のよいところは、アクションの表面だけでなく、子どもの内面でどのようなことが起きているのかきちんと説明されているところです。どれもとても細かい視点でのステップですが、でも知っておくと、子どもを観察するのが楽しくなると思います。
●バイリンガルについて
バイリンガルについての特別な研究や成果はあまり記されていませんが、気になったところをいくつか。
生後6カ月には、母語において非関与的なカテゴリーを切る境界線は消滅する。(中略)身近なところで聞いている音声構造にはふつう存在しない要素を「聞く」のを怠るようになる。(中略)バイリンガルの家庭のコドモはすべてのコドモと同じく器用に、自分が耳にしている2つの言語を相手に、こうした選択や再構造を並行して成し遂げる。(p.52)
なんでこんなことわかるの? と思ってしまうのですが、本書をちゃんと読むと、これらがどのように証明されたのかさまざまな実験が詳しく書かれています。上記の記述では、「生後5~6か月ごろまでは子どもはどんな言語でも習得できる能力をもっているが、その時期を過ぎると母語以外の音声要素は自動的に聞き取らなくなってしまう」と言っています。
私としては、母語の決定のタイミングはあまり重要ではないのですが、「母語以外の音声を排除してしまう」というところが一番マズイなと思いました。
コドモの音レパートリーは、母親の音レパートリーのあれこれの特性より、周囲で話されている言語の音レパートリーを反映しているのである。(p.95)
ということは、やはり母親ひとりがひたすら英語で話しかけて、英語をわかってもらおう、いうのは無理があるということなんですよね。んー、日本にいて英語が身近に感じられる場所を見つけないとなぁ。英語が話せるお友達ができるのがいちばんよいのでしょうね。
・・・言語環境は人間的なものでなければならない。つまり物質的にそこに居る人間によって提供される言語環境でなければならない。ラジオやテレビで人が話すのを聞くだけは言語にアクセスできないことが知られている。(p.103)
そうですよね。英語のCDやDVDを一方的に子どもに見せるだけで、英語が覚えられるわけがありません。これは当たり前です。だって、「聞く、見る」というインプットだけの練習にしかならないですからね。会話するためにはアウトプット、つまり言葉を自ら発する練習が必須だと思います。だから、コミュニケーションとして成立する環境が必要。私もこういった状況に陥らないように、こどもと英語のDVDやCDを聞くときは、感想を言ったり、自分のことばで説明したりするようにしています。
●最後に
あれれ、ずいぶん長くなってしまいました。手短に感想を書くって難しいです。もっとコンパクトにまとめられる練習をしなくちゃダメですね。
本書に記されていた内容をいくつかご紹介しましたが、本の中にはもっとたくさんおもしろいことや実験が紹介されています。個人的にはマザリーズ(母親語)についての説明や、さまざまな文化圏におけるこどもの言語習得の違いなどの話がおもしろかったです(アメリカの母親は子どもに対して「早熟」を好むのに対して、フランスの母親は「ゆっくり学べばよい」という姿勢。この姿勢の違いがこどもの言語習得に与える影響など)。ちなみに最後の要約に見開きページに、各月齢でどのようなことができるのかといったチャートが掲載されていて、これがとてもよいなと思いました。
途中でも少し書きましたが、本書の中には日本人の例も取り上げられていますが、ほんの少しです。基本的にはフランスのこどもにおいての説明がメインなので、できれば本書の後半部分の内容を日本のこどもの場合に置き換えて、理解してみたいなと思いました。もし、そのような本があれば教えてください。また、冒頭にも書きましたが、本書はフランスで1996年に刊行された書籍です。今は2013年だから、17年も前の本。きっと、これより後になってわかったことや新しい実験もたくさんあるはず。そんなことがわかる本もあれば、ぜひ読んでみたいと思います。
●<メモ>参考文献からひろった読んでみたい本
邦訳があると記されていたもののみ。フランス語、英語の原書本で読んでみたい本もたくさんあるけれど、ひとまず日本語から。