遅れての夏休みのつもりで一週間の休暇をもらったが、特に予定もなく、一日中家にこもっているのももったいない気がしたので、渋谷のBookOffへ出かけた。今年の7月に妊娠が発覚してからの私の興味は「言語学」から「教育」一般へと展開している。そこで、狙った本はシュタイナー関係の書籍。大学の授業で小安美知子さん著『ミュンヘンの小学生』を取り上げたクラスがあり、その時に学んだシュタイナー教育がずっと頭の片隅にあったから。教育といえばモンテッソーリあたりから学ぶのか普通なんだろうけど、やっぱり自分の興味のあるところを掘り下げようと思って、とりあえずのノリで行ったのがBookOff。ブックオフはそういうノリで行って、興味を広げてくれる書籍に出会えるから好き。
シュタイナーモードで向かったからには教育関係の本をサーチしまくった。そして今回のこの書籍が目に留った。アメリカのTVドラマ「Gilmore Girls」の大ファンである私にとって、アメリカ東部のプレップスクールは興味の宝庫。本書は日本人の女子高生が、東部のプレップスクール、チョーム校に通っている時期に書いた体験記ということでさっそく購入してみた(もちろん100円)。
1日で完読できるスラスラ読める軽い体験記だが、やはり日本以外の教育方法についてあまり知らない私にとっては、勉強になることがたくさんあった。私も16歳のときにアメリカのデンバーの公立高校に1年間(sophomore:高1)留学していたので、計算機を使って関数の図形を書く数学の授業などの体験などにはおおいに共感できた。「え、手で計算しなくていいの?」「全部、計算機にやってもらっていいの?」という戸惑い。日本ではx軸y軸を書いて、点を打って、丁寧に定規で線を結んだり曲線を書いたりしていたから、そのポンと一瞬で終わってしまう数学の授業には本当に驚いた。
だが、著者が通っていたのはプレップスクール(寄宿制の私立高校)ということで、授業だけではなく、朝から晩まで学校で生徒と共同生活をしながら授業、学校のイベント、パーティ、クラブ活動、ボランティアをこなしていくというハードだが24HRフルで学業を満喫していた様子が私にはうらやましく思えた。
私もちゃんとアメリカの高校を卒業して、アメリカの大学に行けばよかった(いまさら遅いんだけど……)。住まわせてもらっていた、アメリカのばーちゃんがちょっと意地悪で、日本に帰ってきちゃったのよね。トホホ。
それからこの本を読んでみたいと思った理由がもうひとつ。この間、仕事で日本のアメリカンスクールに通う学生さんにインタビューする機会があって、そこで聞いたさまざまなプロジェクトがものすごくクリエイティブなものばかりで印象を受けたから。「日本ではそんなおもしろい授業聞いたことがない!」というようなものばかり。彼らは授業とは言わずにprojectと言っていた。なんかみんなで共有してやる実験のような感覚が前面に感じとれていいなと思った。
中でも「すごい」と思ったのが保健体育の授業のプロジェクトDummy Baby。人工的なマイクロチップが埋め込まれた乳児の人形がひとり1体渡されて、それを24時間面倒みるというもの。もちろん男子も女子も。その電子ベイビーは、お腹がすいたり、おしめの交換が必要になったりすると定期的に泣くようにプログラムされている。それに応えるための、電子哺乳瓶や電子オムツもセットになっていて、それらで適切にケアしてあげないとプログラムの中から点数が引かれて、成績に反映されることになっている。ちゃんと夜中にも泣くようになっていて、インタビューした男の子のベイビーは深夜2時と4時に泣いたらしい(笑)。確かにお金がないとこんな設備投資はできないかもしれないけれど、日本では今のところ聞いたこともないし、実際に体験しながら学べるというスタイルを優先しているところが大変優れていると思った。
日本の英語教育でよく言われているが、受信型になっていて発信でいないといのは、実体験、つまり実際に話す、会話するという経験値が圧倒的に足りていないから。語学教育のみならず、なんでも紙面だけで完了する教育ではなく、自分たちで考え行動するというスタイルがもっと登場するといいと思う。これは著者がプレップスクールで学んだ学習の一番基本的なところでもあったのだと思う。本書によると、授業のほとんどは質問から始まるという。それは、宿題が基本的に授業の予習になっていて、授業ではわからないところを先生に聞く、というところから始まるから。最初から「さぁ、教えてくれ」の受け身の姿勢では通用しないスタイルだ。自分から「教えてください」と教師に投げかける必要がある。「知らないから、分からないから、教えてほしい」これが学習することの真髄でしょう。そういう意味で、日本の教育は今どうなんだ、とあらためて探ってみたいと思った。これについては私の「知りたい!」パワーを注いで今後研究していきたいと思う。
さて、本書を読んで気になったところに記しをしたので書き出しておく。
・ネイティブでもwriting(正確な文法で文章に書くこと)は難しい。それは口語体とかなり異なるため。文中に口語体があるとcolloquial(口語体!)とチェックされる。
・おもしろいなと思った課題、授業スタイル;
○インターネットを活用して学んでいる外国語の最近の話題を調べる
○世界史の授業はディスカッションが中心→前日に授業範囲を教科書で読み、驚いたことなど「リアクション」を書きだしておくのが宿題。それを授業で発表して先生がうまく進行させていくのが授業スタイル。
○世界史の授業で、実際に歴史上に起きたことでも「もしそうなっていなかったら」の前提で頭を働かせて考え、意見を交換したりする。こうすることで、過ぎ去ったことではなく、「もし自分の時代だったら」という視点で見ることができ、自分に結び付けやすくなる。
○Big Brother, Big Sisterボランティア。近所の子どもたちを訪れたり、学校に招待したりして、面倒を見るプログラム。→私がインタビューした日本のアメリカンスクールに通う子たちも、スクールバスの中でbus tutorという係(バスの中で低学年の子どもたちの安全を確保すると同時に、面倒をみる係)を担当していて、これを通じて他の学年の生徒ともコミュニケーションをとることがプラスになっていると言っていた。
・著者は日本の中学に通っていたころから、アリゾナ大学の通信教育でwritingのコースを取っていた。(幼少期はアメリカで過ごしているので、英語は問題なく話せるがスキルキープのためでしょう)
・外国人(特に欧米人)にとって日本語を学ぶのは難しい。なかでも「てにをは」。日本人でもなぜ「道[を]歩く」なのかなかなか説明できない。→確かにそうだと思った!
・plagiarism(剽窃)は大切。エッセイを書くときに徹底してチェックされる。引用文、索引欄、参考文献の正しい表記ルールをしっかり身につけることが求められる。
・日本ではきゅうりに味噌をつけて食べるが、アメリカではセロリにピーナツバターをつけて食べる。
・著者が通っていた年にNHKでチョーム校を紹介する番組が放送された。『二十一世紀の日本人へ 独創教育での知の再生』というタイトルらしい。見たい!
・Mug Night→マグカップを持ってあつまるパーティ。キャンディやココアなどを入れて楽しむ夜のお茶会。
・ライティングの先生のお言葉。
○ひとつの段落ではひとつの論点を議論する。
○推敲しすぎる、ということは決してない。
○Show, not tell. 事例で見せよ、言葉で語るな。くどくど説明しないで、事例を読者に示せ。
本書を読み終わった後の感想として、もちろん私にとって新鮮なことがたくさんわかったので大変勉強になったし、面白く読ませてもらったのだが、一般読者の疑問として、以下の点も隠さずに含めるとさらによかったと思う。
・学費について。そして奨学金がどれくらいもらえたのか。
・どういった階級の生徒が通うところなのか。
・どういうきっかけでこの本を執筆することになったのか。
・著者のその後の進路(早稲田大学法学部に進んだという情報がネットにあったが、なぜそこに進学したのか、著者の前向きなコメントがあるとさらによかった)
・人種について。白人が多いのはもちろんだと思うが、本書のカット写真などを見ていると著者と一緒に写っているのはアジア系の子が多いような気がする。人種でグループができるのかどうか、という視点。
※ちなみに私が通っていた公立の高校ではグループはほぼ人種別になっていた。私の通うデンバーの高校には日本人は私の他に一人しかいなくて、もちろんその子とは仲良くなったが、グループとまではもちろんいかず、私はユダヤ教のロシア人の姉妹といつもつるんでいた。とてもとてもいい子たちだった。この経験から、私はユダヤ人にも興味をもった。白人、黒人、ヒスパニック、アジア(中国、コリア)はほぼ完全に分離していた。私が通っていたのは1996年。
岡崎さんはチョムスキーとの対談本があるらしいので、次はそちらの本もぜひ読んでみたいと思います。あ、でもシュタイナー先に読まなきゃ、だ。
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