2015年1月15日木曜日

ことばの力学 ―応用言語学への招待― 白井恭弘(2013)





年末に読みました。
白井先生はアメリカで言語学専攻の学生に「言語学の応用」という授業をしているそうで、ぜひその授業の内容を本や動画にしてほしいなと思います。

この本でドッグイヤーしたところをメモ

p52
多くの研究の結果、認知心理学の分野では、バイリンガル児のほうがモノリンガル児よりも認知的にすぐれている、ということが定説になっている。…ニューヨークタイムズ紙(2012317日)は「なぜバイリンガルのほうが賢いか(Why bilinguals are smarter)」という記事を掲載しました。

p57
ジム・カミンズの「読み書きの能力(リテラシー)も含めて、思考力と関係の深い言語能力は共有される」という考え方。脳の処理能力に限界があると考えれば、二つの言語を高いレベルであやつるということは、非常に難しいはずです。…これが可能になるのには、脳が二つの言語を別々に記憶、処理しているのではなく、二つの言語に共通する部分は共有しているため、と考えるのがカミンズの二言語基底共有説(もしくは、二言語相互依存説)です。そして主として共有されるのは、日常会話能力(BICS=Basic Interpersonal Communicative Skills)ではなく、教科など、複雑な内容を扱う学習言語能力(CALP=Cognitive Academic Language Proficiency)のほうです。バイリンガルといっても、ただ日常会話ができるレベルと、複雑な内容を議論したり書いたりというレベルとでは、話が違うのです。

p.60 「ダブルリミテッドの危険性」
…第二言語の日常会話能力だけ発達して、複雑な会話ができないのは、均衡バイリンガルとは言えません。ひどい場合には、母語でも第二言語でも学習言語能力が発達しないまま終わってしまうケースも考えられるのです。これをダブルリミテッドと呼ぶこともあります。


p.64 「言語学の応用としての『応用言語学』」
…外国語教育に言語学が本格的に応用されたのは、主に第二次世界大戦からその後の冷戦時代で、「戦争」「冷戦」という現実がきっかけでした。つまり、敵国の情報を効率よく集めるためです。…戦時下に言語学は暗号解読のために利用されました。…さて、第二次世界大戦からその後の冷戦時代の言語学の主流は、構造言語学でした。…そこで外国語教育のために、当時心理学で主流だった行動主義心理学の「習慣形成」学習理論を利用して、オーディオリンガル教授法という方法が提案されました。…つまり「意味を無視してもできてしまうドリル」を大量にやらせたことです。現在では意味を理解することが言語習得のカギだということがわかっています。

p.67  「効率のよい外国語学習とは」
…言語習得の一番大変なところは、リアルタイムでどんどん流れてくる音を、すぐさま意味として理解すること、そして、頭の中で言いたいと思っている内容を、音声言語としてものすごいスピードで口に出さなければならないことです。…意味を無視したドリルでは、それはできるようになりません。…ではどうすればそれができるようになるか。第二言語習得研究が出した答えは、「インプットを聞いて意味を理解すること」です。…意味を音声で聞いて理解するプロセスなしに言語習得は起こらないというのが、第二言語習得研究の現在までの結論です。

p.112
日本語には、さらに、相手が何を思っているかを表す「文法形式」があります。「ね」「よ」「かな」などの終助詞がそれです。…これらの表現は子どもが小さいときから非常によく使われるので、日本人の子どもは「心の理論」の発達が早いのではないかと考えられました。ドイツ語にはこのような文法形式がないので、ドイツ人と日本人の三歳児を比較して前記の「誤った信念課題」を使って実験したところ、日本人の子どもは、使われた言語表現に基づいて登場人物の思っていることをある程度推測できるのに対して、ドイツ人の子どもはそれができないという結果がでました。

→うちの18か月児は最近よく「ね」を使うな。「おいしいね」「きれいだね」って。それからおもしろいなと思っているのは「行ってみる」という表現。「~てみる」というのは私が「行ってみる?」と聞くからその反復で覚えちゃったんだよね、きっと。さらに、「どうかな~?」「なんだろう?」を頻繁に使っているのが印象的。これも私がたくさん言ってるんだろうな。


p.122
…このように私たちは経験にもとづいて、あるものとあるものを結びつけるという認知活動を常に行っています。そのような認知構造の中で不都合なものを「ステレオタイプ」とか「先入観」と呼んでいるのです。…ステレオタイプの怖いところは知らないうちに、予断を持って判断をしてしまうところです。

→「ステレオタイプ」ってよく聞く言葉なんだけど、まだ自分のボキャブラリとして使いこなせるところまでいってなかったんだけど、白井先生のこの説明の前後を読んで、よくわかりました。今まででいちばんよくわかったかも

p.124
…仕事上の成功を男性は自分の手柄のように振る舞うのに対し、女性はみんなの手柄だというような言動をする傾向があるのです。そうすると上司は、男性の方を昇進や昇級で評価しがちになります。

くやしいかな、でもこれは相当な現実だと思う。私の会社なんて評価を下すべく社長が女性なのに、女性の社員(=私)の成果はみんなの成果だと思い、男性の成果は(個人がものすごいアピールするから)男性の手柄として認められてしまっている。本当に上司が部下の性格やスキルをしっかり見る力がないと、納得のいく評価はできないと思う。現実問題、それがしっかりできている上司なんて90%もいないんじゃない!?(私の勘だけど)


p.165
法律専門知識のない私たち一般人は、それだけで、不利な状況におかれます。そうならないよう、少なくとも法に関わる言語を一般の人にもわかりやすいものにし、無実の人が犯人にされることのない言語使用がなされることを保障することが必要でしょう。

そして現実的な具体案として、
1)法律関係の言語を簡単にする
2)目撃証言の収集方法の記録

にもっと注力すべきだと白井先生は述べています。

→法律用語に関しては私もまったく同意見。甲とか乙とかただ読みにくいだけだし、事態を混乱させているだけだし、法は法律家という一定の人にしか操ることができないものだというのは本当におかしいと思う。もっとわかりやすく、だれでも簡単に理解し、読めるものにすべきです。

p.171
…アメリカでディスレクシアが多いのは、英語の綴りと発音の関係が非常に複雑なためだと言う説もあります。実際、英語より規則性の高い言語を使う国民は、ディスレクシアの率が少なくなっています。

→最近英語のフォニックスについて調べたり、話を聞いたりする機会が増えているんだけど、英語の綴りって本当に複雑! それに比べるの日本語の1文字1音ってとてもシンプルでわかりやすいなあって思う。ディスレクシアって本当に多いんだよね。ハリウッドで活躍している著名人にも多くて、ぱっと思いつくだけでも、キーラ・ナイトレイ、トム・クルーズ、スピルバーグ監督などがいる。

p.179
自閉症の少女。カナダのカーリー・フライシュマン。YouTubeにいろいろな動画をアップしている。カーリーのwebsite  

p.187
アメリカのコメディ番組「ビッグバンセオリー」ではSiri (iPhoneのソフトウェア) のことが好きになってしまう登場人物が描かれている。

→応用言語学とは関係ありませんが、「ビッグバンセオリー」は気になっていたところだったのでうれしくてメモ。



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